シロコの夏休み 3日目・下

シロコの夏休み 3日目・下


シロコの夏休み 3日目・中へ

真夜中

私はみんなを先に帰し、1人バーベキューの片付けをしていた。

その時、何かを感じた。

まるで空間が歪むような何かを、私は感じた。

銃を手に取り、セーフティを外す。

『それ』が顕現した瞬間、私はそちらに銃を向ける。

シロコ「・・・・・」

黒いモヤのような何か。

それが空洞だと察するのに10秒。

そしてそこから出てくる人が誰かを確信するにはコンマ1秒もかからなかった。

クロコ「・・・・・」

もう1人の、私だ。ハイヒールを脱いだからなのか、視線の高さがあの時よりも低く見える。

シロコ「ん。もう1人の私」

クロコ「ん。もう1人の私」

もう1人の私との対面は、コレで3度目。

沈黙が流れる。

自分自身との会話で、何を話題にすればいいのか、お互いわかってない。

すると、彼女はポケットに手を突っ込む。

あの服にポケットがあったことに関しては置いておいて、彼女が取り出したものを私は見る。

シロコ「・・・・それは・・」

青い目出し帽。2番の数字。間違いない。

どっからどう見ても、私が渡した覆面水着団の目出し帽だ。

クロコ「・・・もう、やらないの?」

シロコ「・・・ん、銀行強盗?」

もう1人の私は首肯する。

銀行強盗。懐かしい響きだ。

あの頃はお金が足りなかった。どうしても借金を回収しなければならなかった。

でも、今は違う。もう借金はない。

だから・・・・

シロコ「・・・うん。もうやらなくてもお金はたくさん手に入るし、それにホシノ先輩からダメって、言われたから」

彼女の顔が硬直する。もしかして一緒に銀行強盗をやろうと誘っていたのだろうか。

しかし首を振ると、また私に問いかけてくる。

クロコ「・・・それじゃあ、リゾート開発は?セリカ達とやろう・・って・・・」

ああ、リゾート開発。

そういえば、セリカがくじ引きで当ててたリゾート地、どうにかして復旧させるための『視察』でもあったね。

でも・・・・・・

シロコ「・・・・無理。ホテルと、インフラと、娯楽。いっぺんに作るのは、アビドスじゃ無理」

もう1人の私はそれを聞いて、一歩下がる。

何かを考えているのだろうか。

クロコ「・・ん・・・本当は、わかってるはず。私の、言いたいこと・・・・」

シロコ「・・・わからない。」

クロコ「・・・砂で作る肥料・・・・あれは、『砂糖』を無毒化しているんじゃない。そのまま合成して使っている。そのせいで、たくさんの人がまた『砂糖』に侵されているのに・・・・」

薄々わかっていた。

アレを使った作物を、ゲヘナは理由をつけてに購入しなかったし、農作物規定も不自然なタイミングだった。

ゲヘナが砂を焼いた後、どのように化学肥料に転換し、レッドウィンターなどに輸出するかも見せてもらったことはなかった。

だから、薄々わかっていた。

でも私は引き下がらないし、引き下がれない。

私は左手をイヤリングに伸ばす。

ホシノ先輩を思い出しながら、言語化するために目を閉じて考え、そして開く。

シロコ「・・・・分かってる。それでも私は、売り続ける」

クロコの顔が大きく歪んだ。

クロコ「・・・なんで・・・」

シロコ「・・・もうこれ以上失いたくないから」

覚悟の決まった私の目を見たクロコは私を驚きの目で見つめた。

この1年間の思い出を頭に浮かべながら、ぽつぽつと語る。

シロコ「・・・私はこの1年で学んだ。全てを助けることはできない。たとえ超人のような人でも、みんなが幸せになる『ハッピーエンド』なんてものは存在しないって」

カイザーとの戦いで学んだ。

ETOとの戦いで学んだ。

アビドスカルテルの一件で学んだ。

そして、あのゲームでも学んだ。

よく漫画やアニメなどで描かれる『ハッピーエンド』は、ないのだ。

そして私は、ヒフミ達のようにハッピーエンドを信じ続けるほど、子供ではなくなった。

シロコ「・・全員を助けられるわけじゃないなら、せめてこの手で届く人たちは全員助けたい」

ノノミ、セリカ、アヤネ、便利屋、ファウスト、イチカ達、まああとマコト議長達。

今の自分がどれだけ醜く足掻いても、助けられるのはせいぜいこれだけ。

だから、せめて彼女達だけは確実に助けられるようにしたい。

シロコ「・・・もうこれ以上、大切な人は失いたくない」

もうこれ以上、想いを呪いに換えたくない。

シロコ「・・・ホシノ先輩がおかしくなったのも、その騒動に先生が巻き込まれたのも、イチカ達の大切な仲間がいなくなったのも・・・。

アビドスにお金がなかったのが悪い」

他者からお金を巻き上げられなかったのが悪い。

シロコ「・・・もう2度と、お金で苦しみたくない」

もう2度と、セリカにバイトに奔走させたくないし、アヤネを資金繰りに苦労させたくない。

シロコ「・・・だから、もっとお金を稼ぐ」

もっと他者を切り捨てる。

シロコ「もっとみんなの笑顔を増やす」

他人の屍の上で。

シロコ「・・・それが私の目標だし、願い」

それが私の意思だし、エゴ。

全てを吐き出し終わった私は、クロコをもう一度見つめる。

いまにも泣きそうな顔だ。おかしいな。ひどいことを言ったつもりはなかったのに。

クロコ「・・・・ああぁぁぁぁぁあぁあぁぁあ!!!!!!!」

びっくりした。何故絶叫しているのだろうか。

私にギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で、ごめんなさいと連呼している。

誰に謝っているのだろうか。ここには私しかいないし、私に謝らなきゃいけないことはしていないはずだ。

クロコの一連の振る舞いがよくわからなくて、私はただ何もできず、じっとしているしかなかった。


やがてクロコは落ち着きを取り戻して立ち上がる。

その目はまだ潤んでいたが、それでも底知れぬ恐ろしさを感じた。

クロコ「・・・・今日は、帰るね。」

彼女はまた空洞を呼び出し、そこに入ろうとする。

そして去り際に、私の方を振り向いた。

クロコ「・・・・これだけ言わせて」

彼女は目を閉じる。

数刻の沈黙ののち、再び目を開いて

クロコ「・・・まだ、終わってないよ」

とだけ告げると、去っていった。

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4日目

ついにアビドスに帰る日になった。

帰ったらまた生徒会長として書類を片付けなきゃいけないし、サオリとの会談の日程も組まなければいけない。

やるべきことはたくさんある。


秋にまた旅行に行くとしたら、百鬼夜行がいいかな。

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おまけ

レッドウィンター北部 北極圏

とある5人が、北極圏の洞窟の中で休憩していた。

ネル「・・・ったく。火が全くつかねぇ。このライターもついにイカれたか??」

アカネ「・・・防寒装置も、北極圏に入った途端故障しちゃいましたしね。エンジニア部の人たちにもついてきてもらうべきだったでしょうか・・・」

彼女達はC&C。

ミレニアムが誇るエージェント集団だ。

ネル「・・・セミナーの連中、なんでここを探させるんだよ。こんな寒ぃとこにいるわけねぇだろ!あいつら金持ちなんだからもっとこう南の・・・」

カリン「・・・リーダー・・・リーダー・・・」

ネル「んだよ?」

カリン「・・・・トキが寝ている」

ネル「起こせ!!!死ぬぞこの状況で寝たら!!!!」

この状況で寝る余裕があるというのは、逆に強いということでもあるが、普通に死んでしまう。

アスナ「・・・・ねぇリーダー。やっぱり帰ったほうがいいと思うよ・・・。なんだか嫌な予感がするし・・・少なくとも他の洞窟に行きたいな・・・」

ネル「そうは言ってもなぁ、この状態じゃヘリもこねぇし、ベースキャンプまで歩くのも無理だろ。雪嵐の中120kmだぞ?遭難すんのがオチだ」

アスナの予感はかなりの頻度で当たるので頼りにしているが、この状況では厳しいだろう。

少なくとも、今体力が厳しそうなメンバーを歩かせたら普通に死にかねない。

ネルは地図を開き、打開策を探す。

30km先にある村。ここに行く以外で、このジリ貧を打開する方法はないだろう。

ネル「・・・仕方ねぇ。カリン、動けるか?」

カリンは首肯する。

ネル「・・・アスナ。後輩どもの面倒をよろしくな。あたしはカリンと近くの村まで行って、車を出してもらえないか交渉してくる。」

ネルはカリンと去っていった。

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数時間後

アスナ達がぼーっと火を眺めていると、足音が聞こえた。

ぴたっ、ぴたっと響いてくる。

アカネ「・・・アスナ先輩」

アスナ「・・・・・」

アカネ「・・・アスナ先輩???」

ここにきて代償でダウンである。

ついでにトキも寝ている。

すると、足音の方から声がしてきた。

「やっぱり、嗅ぎつけてたんですね〜♡」



ネル達が戻ってきた頃には何もなくなっており、訳が分からずミレニアムに帰るしかなかった。

彼女にとっては悪夢みたいな出来事だろう。

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用語集・概念集

クロコ:シロコ*テラーの別名。長いのでクロコにした。

シロコ(イヤリング):先輩や先生を失ったものの、アビドスオジサンユメモドキのように折れることなく、自分が助けられるものだけでも確実に助けようという『漆黒の意思』(エゴ)に目覚めたシロコ。みんなを笑顔にするにはお金が大切だと考えている。『漆黒の意思』に目覚めたおかげで、クロコとはおそらく別個体として扱われることになった。やったねクロコ!2人存在しても許されるよ!

漆黒の意思の元ネタはジョジョ第7部(SBR)

C&Cin北極圏:行方不明となっていたホシノ達だったが北極圏送りになったレッドウィンターの227号特別クラスの2人から、それらしき人物を見たという通報があり、念には念をと言う形で派遣された。

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あとがき

先生との出会いと別れ、カイザーとの戦い、覆面水着団、クロコとの対話。そして・・・。シロコはあの一年で大きく成長しており、清濁併せ飲むことができるようになりました。色彩の影響もあるので、プレ先との別れで時間が止まってしまったクロコに比べて肉体面ではあまり成長していませんが、それでも精神面では大きく成長したことでしょう。たとえどんなにひどいことがあったとしても、このシロコなら立ち上がるし、仲間達を護るという意思は決して折れないでしょう。逆にクロコは銀行強盗やリゾート開発など、青春の間のひとときの思い出を持ち出してきました。クロコはかわいいですね。

何やら一部地域が大変なことになっていますが、それらはマコト様の・・・ゲヘナの覇権に対する脅威にはなり得ないでしょう。万魔殿も軍縮こそしましたが、イブキに対する脅威はイロハの装甲師団で全部轢殺します。(フラグ)

イブキが生徒会長になる頃までゲヘナの覇権は安泰だな!!



それはそれとして議長。やっぱりホシノ達の安否やヒナの遺体に関して再調査したほうがいいと思うんですけど。

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